この治療事例では、6歳頃から肝臓の数値が悪化し、最近になって胆嚢(たんのう)に泥がたまり、肝臓にも炎症が生じているとの事で受診された犬のマルチーズの症例についてご紹介します。
胆嚢は肝臓で作られた胆汁という消化液を貯めておく袋です。食事をとると、袋が収縮して胆汁を小腸に分泌します。胆嚢内の胆汁は通常、サラサラとした液体ですが、何らかの原因で胆嚢の中にゼリー状の粘液がたまってしまうことがあります。この状態を胆嚢粘液嚢腫といいます。胆嚢粘液嚢腫になると胆汁がうまく腸に出ずに下痢や嘔吐をしたり、進行すると胆嚢自身やその周りの臓器に炎症を起こしたり、胆嚢が破れてしまって腹膜炎を起こしてしまうこともあります。
今回のケースでは、既に薬を飲んでいたにも関わらず、胆嚢周囲や肝臓に炎症が進行していました。
胆嚢粘液嚢腫(たんのうねんえきのうしゅ)の治療には内科治療(薬物療法)と外科治療があります。今回の場合、既に薬物療法を行なっていたにも関わらず、胆嚢周囲と肝臓に炎症が進行していたため、進行を止めるために外科的に摘出する事が必要でした。 肝臓については、手術後、肝臓の一部を切除して治療が必要かどうかを判断するための組織検査を行い、今後の治療方針を検討しました。
手術は無事に終わりましたが、CT検査と病理検査で肝臓に小さな結石が見つかり、慢性の肝炎があることがわかりました。肝臓の小さな結石に対しては外科処置ができないため、今後は薬物療法を続けながら肝臓への負担を減らすことが必要です。
時折嘔吐することがありますが、現在はとても元気であることが報告されています。
肝臓や胆嚢の病気は一見すると分かりにくく、吐き気や下痢といった症状や血液検査に異常が出る頃にはかなり進行していることもあります。胆嚢の病気に関しては超音波検査が有効ですので、一年に一回は定期検査を行い、異常の早期発見に努めることが重要だと考えられます。
今回の病気は小型犬に限らず多くの犬種に共通して起きる可能性があります。胆嚢や肝臓の病気は進行すると命に関わり、場合によっては治療自体が困難なこともあります。この症例を通じて、肝臓や胆嚢の治療、定期検査の重要性について知っていただくことができれば幸いです。
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