いつも元気にしていた小型犬のシーズーが、健康診断の際に副腎という臓器に腫れが見つかり、『副腎皮質腺腫(ふくじんひしつせんしゅ)』と診断されました。副腎についてあまり知られていないかもしれませんが、今回はこの副腎の治療に関する症例を紹介します。
副腎は体のバランスを保つホルモン(コルチゾール)を分泌している臓器です。慢性的にこのホルモンが過剰に分泌されることで起きる病気を副腎皮質機能亢進症といいますが、副腎腫瘍の場合には必ずしもホルモンを過剰分泌しているわけではありません。
この腫瘍は徐々に大きくなり、副腎の側にある大血管に入り込んで血管を詰まらせてしまいます。そうなると心臓にうまく血液が帰らなくなり、足がむくんだり、最終的には足が壊死してしまいます。その段階になると、ほとんどの場合で根治的な治療は困難となってしまいます。
副腎腫瘍の治療は可能であれば外科治療が最も有効です。ただし大血管から副腎を慎重に剥がさないといけないこと、手術の際の視野が取りづらいことなど、危険を伴う手術であり、手術後もしばらくの間は血栓症などの命に関わる合併症に注意しないといけません。
またこの腫瘍は症状がなく、一見すると元気なことも多いので、命のリスクを伴う外科治療を積極的に選択しにくく、かといってそのままにしておくと治療が困難になる(取れなくなる)という非常に悩ましい腫瘍です。
今回のケースでは、健康診断の際に、副腎に腫大が見つかりました。
より詳しい検査で腫大した副腎の位置や大きさを確認しないと手術ができるかどうか判断できないため、ご家族と相談し今後の治療計画を検討する事になりました。
手術を行う前にCT検査を実施した結果、血管や周辺組織との位置関係、腫瘍の大きさから、リスクはあるものの摘出可能であると判断しました。とはいえ術中・術後のリスクは高いこと、手術が成功すれば今まで通り元気に生活できること、治療が遅くなればさらにリスクは高くなることを踏まえて入念にご家族と相談した結果、外科治療を実施しました。
今回のケースでは、比較的副腎が小さかったこと、本人の体調が良かったこともあり、無事に摘出することができました。術後は合併症も全くなく、現在も元気にしているとのことです。
副腎摘出術に伴う死亡率は20%前後と言われています。副腎腫瘍からホルモンが過剰に分泌されている場合(クッシング症候群)には手術前からホルモンを調整するための内科治療を行い、手術の準備を行います。手術が終わった後は血栓症の予防治療、血圧のチェックなど1週間前後の入院が必要となります。
退院した後も残った副腎が正常に働くまで内科治療が必要となりますが、今回のケースは術後の経過が非常に良く、数日で退院することが出来ました。
退院した後も残った副腎がすぐに働き始めましたので、退院後の内科治療も必要ありませんでした。今回の良好な経過は手術前のホルモン分泌が正常だったこと、早期に治療を実施できたことが関係していると考えています。
副腎腫瘍の犬にとって、最も効果的な治療は外科手術になります。
手術後1週間から4週間を無事に過ごすことが出来れば、非常に良好な予後が期待できます。
ですので、退院してから、食欲がなくなったり、元気がなくなったりした時は、すぐに病院に行って診てもらうことをお勧めします。
副腎腫瘍の外科治療は命のリスクが伴うため、動物の年齢や健康状態、さらにはご家族様の考えを踏まえて治療の選択を慎重にする事が必要となります。外科手術が必ずしも不可能というわけではありません。特に、腫瘍が小さいうちに早期に発見できれば、摘出手術は可能になります。早期発見と事前の情報が治療の成功を大きく左右する代表的な腫瘍だと考えられます。
今回、副腎腫瘍の外科治療について紹介しましたが、もし副腎の治療について迷われている方がいらっしゃいましたら、手術を受けるかどうかに関わらず一度ご相談ください。
また、愛犬の様子がいつもと違うと感じられたら、早めに当院もしくはお近くの動物病院での診察をお勧めします。またその他ご相談がございましたらお気軽にお問い合わせください。
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